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◇行き違い 第84話

Author: 設樂理沙
last update Last Updated: 2025-04-25 11:20:11

84

俺は知らないことにして尋ねた。

だって、薔薇の部屋で勝手に覗いて読んだなんて言えないよ。

「言って、それが何だったのかはっきり教えてくれないか」

「綺羅々と奈羅が一夜を共に過ごしたと分かる映像が透明タッチパネルに

送られてきたの。すごく悲しかった。私も綺羅々のこと好きだったから」

もしもここで何も知らずに真実を知ったならと思うときっと、なんと

怖ろしや、自分は混乱してしまったことだろうと思う。

やはり、自分の知らないところで薔薇は苦しんでいたのだ。

しかし、そうは思うもののせめて薔薇が自分を責めてくれていたら……と、

到底無理なことまで考えてしまう。

なんであの日酩酊状態になるまで酔っぱらってしまったのか、自分。

なんで、もっと早くに薔薇に好きだと口に出して言わなかったのか。

考えても考えても、後悔ばかりが襲ってくる。

僕たちは奈羅の手によって両片想いを断ち切られていたのだ。

しかも、薔薇も自分と同じ気持ちでいてくれたことを知った今では

奈羅の所業は許せるものではなかった。

そして薔薇を傷付けたことも到底許せはしない。

「ただ酔っぱらって寝てただけなのに、君と僕の仲を裂くために奈羅が

何かあると勘違いしそうな映像を君に送ったんだ、きっと。

それが真相。

あれから僕は君を上手くあの時の時間軸の金星にどうにかして

連れ戻したくて、長老の所へ行き勉強してきたんだ。

さぁ、まだ間に合うから僕と一緒に行こう」

「綺羅々、ごめんね。

私、ちゃんとあの時あなたに向き合えば良かった。

でも好きだったあなたに奈羅とのことは本当にあったことだと……奈羅の

ことが好きだと言われるのが怖かった。

本当に好きなのは彼女で私とは軽い気持ちで飲みに誘っただけだと知るのが

怖かったの。早とちりして、地球に逃げてしまってごめんなさい。

こんな私の事を長い間待っていてくれてありがとう。だけど……」

「だけど?」

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  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇切ない夜 第81話

    81大好きな男性《ひと》の肌に触れ続けていくうちに、声にして出《だ》そうなんて思ってもみなかった言葉がいつの間にか零れ落ちる。「あなたが赤ちゃんだった頃、ヨチヨチ歩きを始めた頃、たどたどしく話ができるようになった頃、運動会で走っている姿、学生服を誇らしげに着ている姿、大学生のあなた……どのあなたも見ておきたかった。私を見つけてくれてありがとう」そう告げながら美鈴はいつの間にか圭司の背中に全身を預けて、そして泣いていた。この時の美鈴の心情は、恋人としてだけではなく母性の加わった母親でなければ感じられないような域にまで達していた。それまで美鈴の下で心地良さとともに美鈴の重みに耐えていた圭司が美鈴を抱きかかえるようにしてグルリと身体を動かし2人の位置が反転した。圭司が美鈴を組み敷いた格好になり、美鈴の目に溜まる涙を親指の腹でひとすくいしたあと、近くにあったティッシュを渡してくれた。「ありがと。君のやさしさが心に染みたよ。幸せなのにすごく胸が苦しい。この苦しさを解放したいな」そう言うと圭司の口付けが、美鈴の顔の上に落とされ、やがて口元へそして最後に唇へとやってきた。幾度となくはまれ、ついばまれ、美鈴は切なさと喜びが綯《な》い交ぜになり何も考えられなくなる状況の中、されるがまま圭司の行為を受け入れた。この夜のことは、二人にとって生涯忘れがたく素晴らしい時間になったことは言うまでもない。このようにして、この旅で互いの絆をより一層深めて帰路についた2人は、バタバタとその後、それぞれの遠方に暮らす両家の親に挨拶に行き、結婚式も挙げず記念撮影のみで籍だけ入れて結婚を済ませた。                

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇初夜 第80話

    80 「有難いけど……君よりデカい僕の身体を抱くのは難しいんじゃない?」 「そうなの、そこが大問題なんだけどでも抱きたい。 どうしたらいいかなぁ~」「じゃあさぁ、取り敢えず君の前に滑り込んでみようか」「うん」 『馬鹿だなぁ~そんなの無理だよ』とか一刀両断せずに、協力してくれる 彼に私は増々恋心と切なさとを募らせた。私の両脚の間に座った……座ってくれた彼、疲れるだろうに程好い加減で 私に半身を預けてくれる。 到底私が腕を回しても両手を組めそうにもない彼の身体を後ろから抱きしめる。 私は彼の逞しくてきれいな肌の背中に顔を埋《うず》めてみる。「いい匂い……石鹸の匂いがする」「いい気持ち、背中でいい気持ちになったのは初めてだよ」「「ふふっ」」 「ありがと。この体勢だと圭司さん疲れるでしょ。 あのね、ほんとに気持ち良くなってもらいたいから今度はうつぶせ寝に なってください」私がそう言うと、うつ伏せの体勢になるため起き上がった彼が、座っていた 私の手を取り、立ち上がらせてくれた。 そして「じゃあ僕も少しの間ハグさせて」と言い、私はしばらくの間 彼に抱きしめられた。そしてそのあと、彼はベットに横たわりうつ伏せになった。「えーっと、今から私がすることって私にとっても初めてのことだという ことを知っておいてください。他の誰にもしたことがないことをさせていただきます」 『誰にでもするような変な女と思われたくなくて先に断りを入れた』「うん」圭司さんは俯いたまま返事をくれた。 今からしようとすることを考えると、こちらに視線を向けられなかったこと は有難かった。私は彼の腰辺りの位置に両膝をついて彼を愛でていくことにした。まず彼の肩から腕にかけて何度も両手で撫でた。背中、腰にも手を延ばし、マッサージを続ける。 「気持ちいい……」と言う彼の呟きが聞こえ嫌がられていないことを知り、 続けてそのまま愛でるように首筋から始まり腰までを、何往復も両手で緩急 をつけマッサージを続けた。

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇その時がきた 第79話

    79◇その時がきた私たちはこれまでのようにまったりと2人の時間を紡いでいた。いつも会っている時は彼の存在を感じて幸せだった。そして別れ際におでこに軽いタッチのキスを落とされたことは二度三度あったけれど、そこ止まりの付き合いが続いた。そうそれは、まるで学生のような清い付き合い方だった。そのせいか週末会える時は、1週間分のトキメキとドキドキ感が半端なくいつかその日を迎える日がくれば、自分はどうなってしまうのかと不安を感じるほどだっだ。そんな中、いつものように近所回りを散歩して私の畑に差し掛かった時、圭司さんからゴールデンウイークに海外への旅行を誘われた。国内をすっ飛ばしてのいきなりの海外旅行に少し驚いたけれど、うれしかった。3泊4日くらいで行くことになり、私たちはその日を楽しみにお互い仕事や家事を頑張りその日を迎えた。――――――――――― 初めての夜 ―――――――――――旅行先の1泊目はお疲れ様タイムということで嘘のようだけど、友だち関係のように長年連れ添った夫婦のように疲れをとるため、お休みのキスだけをして静かに 就寝した。そして翌日はクイーンズタウンで観光を楽しみ、早めにホテルに戻った。今宵こそは私たちにとっての初めての夜で暗黙のうちに迎えた瞬間、その時はきた。          ◇ ◇ ◇ ◇先にベッドに入っていた圭司さんからシャワーを終えたばかりの私は『おいで』と手招きされる。私はドキドキしながら彼の横に滑り込む。彼がすぐに手を握ってくれた。「こっち向いて」「何か恥ずかしい」そんな言葉を口にしつつも私は言う通り彼の方を向いた。するとゆっくりと彼の口付けが私の唇に落とされた。それは軽くそして深く、互いの唇が重ねられていく。彼が私を見て微笑んでくれ、このタイミングを逃さず私は自分の切なる望みを口にした。「私、あなたを抱きたい《肌を合わせたい》全身全霊で」

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇キュンキュンする想い 第78話

    78引き続き、2月も畑を耕す作業は続いた。そして今日も、私は相変わらず彼が耕運機で再度作業している横で、チマチマと畑の端で雑草抜きをした。今日もこのあと2人で夕飯を摂る。朝のうちに仕込んでおいた炊き込みご飯とお豆腐とネギ、ワカメ入りの味噌汁、さわらの塩焼き、きゅうりとわかめ、おじゃこの酢の物が作業後に待っている。耕運機から降りてきた圭司さんと雑草を一通り抜き終えた私は「「お疲れ様」」と互いに声を掛け合った。しばし、私が空気の冷たさに手をこすっていると、彼が上から大きくて暖かい両手で包み込んでくれた。「えーっ、あったかい。どうして?」恥ずかしさを隠して私は彼に訊いた。「子供のように身も心も純真だからだよって言ったら聞こえはいいけど、心が単に子供なんだよ」「あっ、分かった。幼稚ってこと?」「そういうとこ……」話ながらいつの間にか、私はすっぽりと彼の腕の中にいた。『ずっと、こうしてたいな……』私は何て言えばいいのか分からなくて空を見上げた。「茜色の空がきれい……。とても幸せです」そんなふうな言葉がきれいな夕焼け空に感化され、口をついて出てきた。すると、圭司さんが私の頭の上にそっと顎を乗せて「僕も……」と言ってくれた。その瞬間不思議な感覚に襲われた。宇宙からそのまま地球に向かって、地球上の畑にいる私たち恋人同士をズームインして俯瞰されている気分になる。その視点は私の肉体を超えた存在だと感じる。初めての体験に私は心震えたのだったが、このあともっとすごい感覚を体験することになった。もともと根本さんには好感を持っていたし、自分たちが今生結ばれる縁だと知らされてからどんどん好きになっていったのは確かだけれど、一緒に夕飯を摂っている時にそれは……その感情は突然訪れた。私の心の臓が、もとい、私の心臓が俄かに騒がしくなってきたのだ。根本さんの食事をしている様子を見ているだけで恋しい気持ちが募り、そのあまりの気持ちの強さに私は落ち着きを失くす。彼を抱きしめて……頭も肩もその背中も腕も、全て自分のものにしたいなどという、襲ってしまいたいという欲情に付き動かされることに。こんな怖ろしい初めての自分《私》の感情など知る由もない彼は、いつもの通り紳士的な振る舞いで時をやり過ごし、車で帰って行った。どうしてこうなった

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